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  1. 弾け散った魔力が、光り輝く蝶となって羽ばたき踊る。

    それらに構わず、ラギトは倒壊した屋敷へと歩みを進めた。

    でたらめに打ち崩された瓦礫の海を、人外の剛腕でかきわける。

  2. エインの夢

    そんなとこにはいないよ。

  3. 疲れきったような声がした。

    エインの〈夢〉が、いびつなオブジェと化した壁の残骸にもたれて座り込んでいた。

    身体が、ぼんやりと薄れかかっている。己の肉体を構成する魔力すら、ラギトに注ぎ込んだ結果だった。

  4. ラギト

    ……おまえにとっては、辛い選択だったろう。

  5. エインが死んだ以上、その願いを叶えるには、エインの〈ロストメア〉が門を通るしかない。

    だが、〝我が子を授かる夢〟の力に囚われた状態では、永遠に己を叶えることはできない。

    そして、〝我が子を授かる夢〟を倒すためラギトに力を与えた今――彼は文字通り力尽きようとしている。

    あの〈夢〉に囚われた時点で、もはや彼という〈夢〉は、どうあがいても叶わない運命にあったのだ。

  6. エインの夢

    せめて、あいつに一矢報いてやりたくてね……。

  7. 〈夢〉は自嘲的に笑った。静かな口調が、最初からこうするつもりだったのだと言外に告げていた。

  8. ラギト

    聞かせてくれ。

  9. 消えゆく〈夢〉の傍らにしゃがみ込み、ラギトは問う。

  10. ラギト

    おまえは、どんな〈夢〉だった?。

  11. エインの夢

    聞いてどうする。

  12. ラギト

    墓碑銘にする。

  13. 倒した〈ロストメア〉には、その〈夢〉にちなんだ名をつける、というのが〈メアレス〉たちのルールのひとつだ。

    誰が始めたことかはわからない。だが、それを拒否する〈メアレス〉はいない。

    そのぐらいはしてやるさ――ある〈メアレス〉が、酒の席でそんな風に言っていた。

    〈夢〉は、そっと目を閉じ、からかうように答えた。

  14. エインの夢

    あんたの手助けをする夢さ。

  15. ラギト

    ……そうか。

  16. ラギトは静かに目を閉じた。

    〈手助けする力〉――あのたぎるような灼熱の力。

    あれは、ラギトに対してだからこそ発揮された力だったのだ。

  17. エインの夢

    事務所かなんかを作って、〈ロストメア〉の情報を集めるとかなんとか――そんなことを言ってたよ。
    ぜんぜん具体的な形になっちゃいなかったけどね。
    都市まちのために戦うあんたを、どうにか手助けしてやりたいって……その気持ちだけは、確かだった。

  18. 〈夢〉は笑った。懐かしむように。もう手の届かないものを、せめて大事な思い出としてしまいこもうとするように。

  19. エインの夢

    なあ。あんたが終わらせてくれよ。

  20. ラギト

    いいのか。

  21. エインの夢

    一方的に殴っちまったからな。一発くらい、返してくれ。

  22. ラギト

    わかった。

  23. ラギトはうなずいた。

    異形の手に、禍々しい魔力が収束していく。彼からもらった力のすべてが。

    〈夢〉が、そっと右手を挙げる。

    その掌に、ラギトは渾身の掌底を撃ち込んだ。

    一撃は、薄れゆく掌をたやすく突き破り、奥の壁を粉々に打ち砕いた。

  24. エインの夢

    いい一発だ。

  25. ざあっ、と輝く蝶が散る。〈夢〉であったものが形を失い、ただの魔力へと変じていく。

  26. エインの夢

    〈夢〉が死んだら、どこに行くのかは知らないけど……もしも、あの世であいつに会えたら……きっと、いい土産話になる……な……。

  27. つぶやきの余韻だけが、風に残って流れていった。

    ラギトは魔装を解いて立ち上がった。はばたく光の蝶たちが、その周囲を踊り回った。

  28. ラギト

    俺もいつかは、そっちに行くさ。

  29. 都市を守るため、〈ロストメア〉と戦う。その生き方には、常に死の影が躍る。

    いずれ、力及ばず倒れる時が来るだろう。
    覚悟はすでに済んでいる。最期のその瞬間まで、背負うもののために戦う覚悟は。

  30. ラギト

    その時は、一杯奢ってもらおうか。

  31. あるいは、自分はその一杯のために戦っているのかもしれない。

    そんなことを思いながら、ラギトは流れゆく風の行方を見送った。

黄昏メアレス プレストーリー

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