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〈夢〉の話を聞いたラギトがまず向かったのは、都市の中央広場――現実へとつながる門の前だった。
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エインの夢
〈メアレス〉が〈ロストメア〉を門に案内するなよ。
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あきれる〈夢〉に、ラギトは肩をすくめた。
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ラギト
昼間なら問題ないさ。門は黄昏時にしか開かないからな。ただ、気をつけておいた方がいい――〈ロストメア〉だとバレれば、袋叩きにされるぞ。
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エインの夢
そのために連れて来られたんじゃないかって思うよ。
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ぶつくさ言う〈夢〉に構わず、ラギトは広場をザッと見回して目的の人物を見つけた。
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ラギト
〈魔輪匠〉 。 -
呼びかける。門の前で都市の職員らしき男たちに指示を下していた若者が、仏頂面で振り向いた。
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レッジ
仕事の邪魔が趣味なのか、
〈夢魔装〉 。 -
じろりと睨みつけてくる視線の強さが、鮮やかな赤毛と相まって、触れがたい炎を思わせる。
だが、気炎万丈と表現するには覇気が足りない。むしろ、内に閉じ込めた鬱憤が、言葉や仕草の端々に苛立ちとなって表れている。
暗くくすぶり続ける熾火に似ていた。 -
ラギト
悪いな。あんたに聞きたいことがあるんだ。最近、魔匠具を専門に狙う窃盗グループがあるらしいが、知ってるか。
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レッジ
ああ。ユバル社を始め、複数の企業が輸送中の魔匠具を奪われている。個人でも、路地で後ろから殴られて魔匠具を奪われたとか、そういった報告が絶えない。
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〈魔輪匠〉 レッジは、物品を加工して古代の魔法を疑似的に再現した品――魔匠具製作の専門家であり、都市最大の魔匠具である門の管理者である。
ユバル社などの魔匠具開発会社は、いずれもレッジと密にやり取りし、技術面での監修を得ているという。 -
ラギト
思っていたより大規模だな。魔匠具は金になると見ての犯行か。
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レッジ
だったら銀行なり宝石商なりを狙った方が、得だと思うが。魔匠具はこの都市の特産のようなものだが、極端に価値があるわけでもない。
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かつて存在した魔法という技術が廃れたのは、人々が魔力を失ったからだ。
今では、魔力を手に入れる手段はただひとつ――〈ロストメア〉を倒し、その肉体を構成する魔力を奪うことに限られる。
だから、使用・製造において魔力を要する魔匠具は、レッジの言うようにこの都市の特産品である。もっとも、魔力を補充しなければならない都合上、都市の外――現実の世界においての需要は少ない。 -
ラギト
〈戦小鳥〉 の杭打機やあんたの弓のような強力な魔匠武器を手に入れ、戦力強化を目論んでいる、という線はないか。 -
レッジ
なさそうだ。どちらかというと、非戦闘用の魔匠具が多く盗まれている。武器類は警備体制が厳重だからだろうな。
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ラギト
となると、魔匠具を専門にする理由がわからんな。
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レッジ
案外、ただの
好事家 の仕業かもしれん。どちらにせよ、迷惑な話だ。 -
レッジは吐き捨てるように言った。
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レッジ
で、なんでおまえがそんなことを調べる。
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ラギト
ちょっと野暮用でな。
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レッジ
〈ロストメア〉を狩る。それが〈メアレス〉の役目だ。関係ないことに
現 を抜かして、その間に門を通られたんじゃ話にならん。警察に任せておくんだな。 -
そう言って、話は終わったとばかりきびすを返し、門の方へ向かっていく。
ラギトも来た道を引き返した。〈夢〉が不機嫌そうな顔で待っていた。 -
エインの夢
意外と嫌われ者なんだ。
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ラギト
あいつは誰に対してもあんなさ。
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エインの夢
ふうん。そりゃずいぶん感じの悪い奴だね。
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ラギト
〈メアレス〉には珍しくない。
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エインの夢
なら、〈メアレス〉自体がろくでもないってことだ。
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ラギト
言えている。
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笑い、ラギトは広場を後にした。