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我が子を授かる夢
おまえのような〝我が子〟を手に入れられるのは喜ばしいことよ、〈夢魔装〉。でも、言うことを聞かない〝我が子〟にはしつけがいるわ。
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人擬態級は、スッと酷薄に目を細めた。
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我が子を授かる夢
やりなさい。
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直後、一撃が来た。
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ラギト
ぐっ……。
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背に、熱い衝撃が走る。ラギトは苦鳴を嚙み殺して耐えた。
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我が子を授かる夢
足りないわ。まだよ。もっと、もっとしつけを与えなさい!
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エインの夢
わかったよ、〝母さん〟。
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吐き捨てるような声。再度の一撃。背中が焼ける。
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ラギト
おまえか……。
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ラギトは辛うじて首を動かし、後ろを見やる。
エインの〈夢〉が、魔力で形成した鞭を手に、自嘲的な笑みを浮かべていた。 -
エインの夢
悪いね。そういうことなんだ。
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鞭を一閃。魔装の上から灼熱が爆ぜる。ラギトは抑えきれない呻きをこぼした。
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ラギト
エインは――
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エインの夢
エインの話は本当さ。途中まではね。
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一閃。まるで容赦ない打撃が、ラギトの背の装甲を削り、魔力を散らす。
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エインの夢
エインはこいつらに捕まった。夢を失ったのは、こいつの〝我が子〟にされたせいさ。 だから僕はエインを助けに行った。助けられると思ってた。
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一閃。灼熱。ラギトは唸る。 このまま嬲り続けられれば、体力も魔力も枯渇して、人擬態級の力に抗うことができなくなる――〈夢〉の〝我が子〟になってしまう。
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エインの夢
甘かったよ。浅はかだった。〈ロストメア〉の仕業とは思ってなかった。 僕はあいつに負けて――今や無様な操り人形だ。
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一閃。灼熱。ラギトは耐える。聞かねばならぬことを聞くために。
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ラギト
エインは――
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エインの夢
死んだよ!
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絶叫。一閃。一閃。一閃。
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エインの夢
僕だって抗った! 負けるわけにはいかなかったんだ! おまえみたいに抵抗して――そしたらどうなったと思う? あいつはエインを連れてきて、従わなければ殺すと脅した!
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灼熱の嵐が降り注ぐ。ラギトは歯を食い縛る。背の装甲が砕け、皮膚が裂けるのを感じながらも。
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エインの夢
馬鹿だった。見捨てりゃあ良かったんだ――あそこでエインが死んだって、僕が叶えばエインはよみがえるんだから! でもあの時の僕は無我夢中で――泣きながらあいつに屈服した! そしてあいつが命じたんだ――僕のこの手でエインを殺せと!
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鞭が唸る。悲鳴のように。ラギトは声もなく、叫びと唸りを耳にする。
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エインの夢
殺したさ! 殺すしかなかった! この手であいつの首を絞めて――それであいつがなんて言ったと思う? 〝ごめんね〟だ! ふざけるなッ!
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鞭か加速する。めちゃくちゃに、でたらめに、ラギトの背中を乱打する。
ラギトは悟る――誰がこの部屋をこんなにしたのかを。 -
エインの夢
ああ八つ当たりさ! でもしょうがないじゃないか! あいつがやれって言うんだから! 僕はもう逆らえない! エインを殺して、自分を叶えることもできなくなって――八つ当たり以外、何ができるって言うんだ!
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我が子を授かる夢
そうよ、愛しい我が子! あなたはそれでいい! 私のために、私が叶うために尽くすだけの〝我が子〟であればいいの!
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人擬態級が笑う。叫びと唸りと苦鳴と笑いが混然一体となって、地獄もかくやというけたたましさを生み出した。
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我が子を授かる夢
さあ、もっとぶつの! もっともっとそいつをしつけるのよ! そいつが力を失って、真の〝我が子〟になれるように――
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言いかけて。
人擬態級は、ぎょっと眼を見開いた。
鞭の唸りが止んでいた。絶叫も。苦鳴も。
ラギトが鞭をつかんだことで。 -
我が子を授かる夢
な――
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ラギトは、ゆっくりと立ち上がった。
全身が熱い。あふれるほどの力がたぎる。血肉のすべてが燃え盛るようだった。
人擬態級の魔力は、もはやラギトを拘束するに足るものではない。 -
我が子を授かる夢
なぜだ――なぜ動ける!
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エインの夢
〝しつけろ〟とは言われたけど、〝手助けするな〟とは言われてないからね。
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エインの〈夢〉が笑った。彼女の命令通り〝しつける〟ために、ラギトにつかまれた鞭を必死に引き戻そうとしながら。
いつの間にか、彼の力は見る影もないほど弱まっていた。 自らの魔力を、ラギトに注いでいたのだ――容赦なく鞭で打ちすえながら、同時に燃えるような力を送り込み続けていた。 ラギトが、人擬態級の支配力に打ち勝てるように。 -
ラギト
俺に白羽の矢を立てたのは、このためか。
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エインの夢
こんなやり方、あんたでないと耐えられない。
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ラギト
いい判断だ。
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ラギトの手から鞭が消えた。エインの〈夢〉が、ついに力を失い、床に倒れていた。
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ラギト
後は任せろ。
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激しい痛みが背中を焼いている。だが、それ以上の炎が、痛みを忘れさせてくれる。
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ラギト
行くぞ。
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ラギトは狼狽する人擬態級を見据え、構えた。
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ラギト
情けの類は、かなぐり捨てた!