イメージを実現するための
多彩なインプット
技術の進歩の先にある新しい挑戦
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丸野未奈
映像業界を経て2014年に中途入社。エフェクトデザイナーとして『白猫プロジェクト』などの運用タイトルに長く携わり、エフェクト組織のマネジメントも務める。現在は新規開発タイトルのエフェクト制作や技術検証を担当。
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菅原祐介
遊技機業界を経て2016年に中途入社。エフェクトデザイナーとして『白猫テニス』の開発などに携わる。エフェクト組織のマネジメントも務め、現在は『MONSTER UNIVERSE』のアートディレクター及びエフェクト制作を担当。
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C.Y
ゲーム業界での映像制作を経て2015年に中途入社。エフェクトデザイナーとして6年近く『白猫プロジェクト』のエフェクト制作を担当。現在は新規開発のタイトルに携わる。
現在、エフェクトはどのようなフローで制作されているのでしょうか。
菅原 基本的には、プランナーから実装内容に対する要望が共有されるので、それをキャッチアップして形にしていくスタイルになります。ただ、エフェクトだけの作業というのはほとんどなく、モデルを作るセクションやモデルを動かすセクションとしっかりすり合わせをしてから、ようやくエフェクト制作の作業に入る感じです。
コロプラではUnityのParticle Systemを使って、粒子を飛ばすような形でエフェクトをつけていき、ゲーム内に実装ができたら、プランナーやディレクターに確認を取りながらFIXに至ります。
C.Y すり合わせを行う中で、さまざまなオーダーがあり、参考の動画を見せてもらいながら「こんな風にしたいんですけど、どうにかできませんか?」と相談されるのですが、どう落とし込んだらいいのか悩むことも結構あります(笑)。
丸野 いただいたオーダーを全部実現できるわけではないので、プランナーの"やりたいこと"が理解できても、データ容量の問題などもあるので、実際ゲームに落とし込めるかどうかは別の話なのですが、それでもなんとか具現化できるように頑張っています。
菅原 逆に「こういう手段を使ってエフェクトをつけてほしい」と具体的に提示されることもありますが、その手段では実現が困難だった場合、"やりたいこと"のすり合わせができていれば、「達成したいことがこれなら、こういうやり方もあるんじゃないですか?」と代替案を伝えることもあります。
エフェクトの制作環境も変化しているかと思います。最近とくに実感している変化などがありましたら教えてください。
菅原 やっぱりUberShaderの進化ですかね。
丸野 以前までは、エフェクトの描画表現を行うときはシンプルな足し算や掛け算しかできなかったんですよね。それこそ描いたテクスチャーを1枚ペタッと貼りつけるだけとか。
でも、UberShaderでは最大3枚のテクスチャーをシェーダー内で合成して描画することもできるようになり、それによって複雑な表現もできるようになりました。
菅原 引き算の表現というのは、例えば星型と丸型の画像を組み合わせることで、星の中央がぽっかり丸く開いているような描画を表現したりすることです。しかも、今は個別にテクスチャーを動かすこともできますし、アニメーションも自由にできるようになりましたね。
『MONSTER UNIVERSE』(※以下、『モンユニ』)では、これらの技術を応用することで他にも、スラッシュの側面を歪ませたり削ったりして、手描きのアニメーションのような複雑な動きを表現しています。以前までだとそういった描写はできなかったですね。
丸野 今後、コロプラから出る新規タイトルでは、こういった技術を活用しています。
UberShaderを使えるようになったのも、「こういう機能を使いたい」と出した要望を、エンジニアさんたちに実装してもらったおかげです。コロプラ独自の制作環境が整い、タイトルごとにもカスタマイズできるようになっています。
その他の制作ツールについても教えてください。
菅原 流体表現をする上で使っているのがHoudiniです。
エフェクトは技術の進歩に左右される部分が多い分野です。Houdiniは次世代ツールとも呼ばれていますが、『モンユニ』でも動画パートのところで、地の底から噴出しているマグマを表現するときなどに実験的に使っています。
丸野 あとはアニメチックな爆発を表現するときに、Shaderとモデルを組み合わせてボリューム感のある表現をしていましたね。
Houdiniはもともとは映像業界でよく使われていたソフトですが、ここ数年でゲーム業界でも使いやすいように改良されたこともあって、コロプラでも徐々に使われるようになりました。
VFXアーティストとして海外で活躍している方とアドバイザー契約を結んでいることもあって、「こういうことをするにはどうしたらいいですか?」と相談できるような体制を整えられているのも、表現の幅を広げる工夫として活かされているのかなと思います。
丸野 また『PRINCIPLES』でも、オブジェクトを破壊したときのモデルを制作するのにHoudiniを使っています。たとえば木箱を破壊する際には、Forceが発生した時点で、木箱のモデルから破壊された木片のモデルへと差し替えます。 以前はMayaを使ってパーツごとに破壊モデルを作っていましたが、Houdiniを使うと、木片のモデルを制作するのが圧倒的に早いですし、木箱モデルに変更が入った際もすぐに差し替える事が可能です。
丸野 とくに利点として大きいのは、トライアンドエラーがしやすいことだと思います。
「負荷に繋がるのでもうちょっと破片の数を減らしてください」と言われたときに、以前までは毎回作り直しが発生していましたが、数値を調整するだけで済むようになったので楽になりました。
新作『PRINCIPLES』のエフェクト制作について教えてください。
丸野 『PRINCIPLES』はスマートフォンアプリで高品質な表現を目指す技術検証に取り組んだタイトルだったので、具体的な破壊表現に関してはランタイム破壊とベイク破壊というふたつの手法を取り入れています。
ランタイム破壊は、ゲーム再生時の変化に対し、ほぼ同時に計算して結果を再現するので、木箱の重さや力のかかり方に応じて変化をつけることができます。
もちろん処理には負荷がかかるので、幅広いスペックの端末でプレイできるように、端末のスペックごとに破片数を調整したり、破壊して数秒後に計算機能をオフにするという設定も実装しています。欠点としては、あくまで演算で破片を飛ばしているので物理法則を無視したいい感じのアニメーションができないことが挙げられます。
こちらのデメリットを克服するために取り入れたのがベイク破壊で、Houdiniでシミュレーションした破壊アニメーションを焼き込んで再生するという技術です。
ベイク破壊だと好きな動きを再現する事ができますし、Houdiniで制作をしているので背景モデルが更新された場合でも再シミュレーションをかければアニメーションの焼き直しが容易で負荷も軽めです。ただし、その環境でアニメーションとして破壊を焼き込んでしまうので、地形に左右される部分が大きくいろいろなステージに配置したりということはできなくなっています。
C.Y あとは、UberShaderでエフェクトのライティング関連の設定ができるようになったので、以前まではライトの影響をエフェクト側は受けることができなかったのですが、今回は複数のライティングの影響を表現しています。
丸野 そうですね。さらにGIの影響も受けれるようになったので、背景にも自然と馴染むような形になっていますね。
以前だったらステージの光量に合わせてなんとなくエフェクトの色味も変えていたんですけど、その必要も基本的にはなくなりました。
菅原 こう考えると技術の進歩がすさまじいですね。
爆発関連だと、粒子表現についても検証しましたよね。
丸野 はい、粒子表現は制作方法が大きく変わりました。ベースはUnityのShurikenというParticle Systemを使うのですが、数年前からVisual Effect Graphが登場し、GPUでシミュレーションを行っているので大量にパーティクルを出すことが可能になりました。
Visual Effect Graphはスマートフォンアプリゲームで使われているケースは珍しいのですが、せっかくなので技術検証を兼ねて『PRINCIPLES』で採用してみようと。
火花が散る場面などで採用しているのですが、これを使うことでスクリーンスペースを使った衝突判定を行っています。
菅原 スクリーンスペースっていうと2Dの情報ですよね?それが3D空間に発生するパーティクルの判定に利用できるようになってるんですね。
丸野 そうですね。衝突判定が甘いので精度を求められると厳しいんですが、火花ぐらいであれば問題なく使えました。とにかくエンジニアさんが凄腕の方ばかりなので頼らせてもらっています。
『PRINCIPLES』に関しては技術アピールという側面もあるタイトルで、当初はデモ映像で作ろうかという話もあったんですけど、映像だといろいろと誤魔化せてしまう部分も出てくるのでディレクターの意向で映像にするのはやめようとなりました。
もちろん、リリース直前の最適化の段階で「この処理はちょっと重かったね......」みたいな部分も出てきましたし、全セクションで検証を行なったことで新たなバグを発見できたのはよかったと思います。
外部の方からも好評をいただいていて、Unity TechnologyJapan内でも話題になったみたいです。
その他では、どのような"新しい挑戦"に取り組んでいるのでしょうか。
C.Y プロジェクトに合わせてUberShaderの機能追加は随時行っています。
今回追加してもらった境界線の強調表示の機能については、例えば、円形の範囲を表示したいというときに設置面に色を加算する、というようなことを行ったり、範囲が段差に重なったときにも「ここが範囲なんだ」とひと目でわかるような表示を心がけています。
また、今までの経験を活かして新作タイトルでは、最初からデザイナー側で簡易メモリチェックをできるような体制を整えさせてもらいました。
『白猫プロジェクト』では1キャラクターが持てる容量や描画基準が決まっているのですが、制作後のメモリチェックでオーバーしていることが発覚し、軽量化に戻らなければいけないケースがよくあったので、そういったことを防ぐのが目的です。
重たいエフェクトや不要なデータが入っていないかというバグチェックにもなりますし、それで問題なければ「よし!」と自信をもって送りだせます(笑)。
あとは、一部の端末や一定の条件下で、エフェクトの一部を非表示にすることで処理負荷を軽減する描画制限機能も取り入れています。
『PRINCIPLES』では破壊表現の負荷を抑えるために自動で数秒後に計算機能がオフになるという話でしたが、新規開発タイトルではデザイナー側が手動で描画制限の設定を行うことで見た目を制御することができます。
オリジナルエフェクト
簡易表示Ver
(動作が分かる物と当たり範囲が分かる必要最低限の物になっている)
丸野 最終的な見た目も大事ですよね。エフェクトの技術も進化していますが、ゲームである以上は処理上の制限があるので落とし込みは大変です。
スマートフォンのスペックに依存する部分もありますし、タイトルによってどの端末を推奨するのかというのもポイントになってきます。
菅原 あと実は、『モンユニ』では、魔法のツボの中で沸騰する液体のループアニメーションを表現しようと検証を行っていました。プロジェクト内の優先度やリリース時期などを考慮して断念したのですが、研究開発は進めておりまして、頂点アニメーションでポリゴンがグニャグニャ動く情報をテクスチャーの画像に落とし込むVATという技術をスマートフォンアプリで実装する検証も行う予定です。
最後に、エフェクトデザイナーとしてどんな人と一緒に働きたいと思いますか?
菅原 「エフェクトで何とかなりませんか?」とほかのセクションに言われたときに、前向きかつ柔軟なコミュニケーションが取れる方と一緒に働きたいですね。
アイデアを持ち寄ったときにそのまま採用されるケースも多い会社なので、ゲーム作りに情熱を持っていると結果も出やすいかなと思います。
もちろん、HoudiniやVisual Effect Graphなどの次世代ツールに精通されているという方も大歓迎です!
C.Y やっぱりゲームが好きな方っていいですよね。「〇〇からいいアイディアをひらめきました!」「こないだ見た〇〇の演出が参考になりそう!」というように、多彩なインプットがあるからこそ、さまざまな角度で意見を交換できると活路が見いだせていけるのかなと思います。
丸野 C.Yさんはまさにそういう引き出しがすごく多いですよね。「なんかいい感じのアイディアない?」と聞かれたりときも、「こんなのはどうですか?」とすぐに見つけてくるので、アウトプットの能力がすごいなと(笑)。
C.Y そう言ってもらえるとありがたいです(笑)。近年のコロプラはいろいろなことに挑戦しているので、多方面に興味をお持ちの方にはピッタリだと思います。
技術的にも新しいことにチャレンジしていますし、それを実現できるエンジニアさんがいるというのも素敵な環境だと思います。
丸野 エフェクトは技術の転換期なので難しい部分はありますが、新たにツールを触るという方に向けたマニュアルも整備中です。
また、やりたいことを率先して伝えるとやらせてもらえることが多いのも魅力の一つだと思います。
これからリリースされるタイトルのエフェクトにも注目していきたいと思います。本日はありがとうございました!
※ 本インタビューは撮影時のみマスクを外す等、感染症対策を十分にした上で行いました。