リードクリエイターが語る
議論の先にある正解のないゲームづくりとは
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大山 源
美大でグラフィックデザインを学んだ後、ゲーム会社へデザイナーとして入社。UIデザイン、3Dデザインを手掛ける。フリーランスとして活動した後、2012年にコロプラへ転職。『軍勢RPG 蒼の三国志』、『バクレツモンスター』の開発にディレクターとして携わり、2022年9月にリードクリエイターに就任。新作タイトルの開発に従事。
ーはじめに
コロプラはまだ世の中にない"新しい体験"を創出するため、2022年9月に新作開発をリードする「リードクリエイター制度」を新設しました。リードクリエイター制度は、コロプラの新作開発には欠かせない豊富なスキルと経験を持つエキスパートが「リードクリエイター」として新作開発を牽引する制度です。
今回は、デザイナーからリードクリエイターに就任した大山源にこれまでのキャリアや、ゲーム開発におけるデザインやアートのこだわり、考え方などについてお話しを聞いてみました!
絵を描くことが好き
美大を卒業し、グラフィックデザイナーの道へ
ゲームの仕事を始めたきっかけ、これまでのキャリアについて教えてください。
子どもの頃から絵を描くことが好きでした。高校時代はラグビーに青春を捧げていましたが、それと同じくらい絵を描くことも好きだったので「絵を描くことが勉強になるのはいいな」と思い、美大への進学を決めました。大学ではグラフィックデザインを専攻し、この頃から3Dやグラフィックデザインの仕事に就きたいと思っていました。就職活動ではゲーム業界のほかに広告業界も視野に入れていましたが、縁あってデザイナーとしてゲーム会社に入社しました。
新卒で入社した大手コンシューマーゲーム会社では、UIデザイナー、3Dのモーションデザイナーを担当し、MMORPGやアクションゲームの開発に従事しました。その後会社員を辞め自らの手で道を切り開きたいと思い、フリーランスのデザイナーに転身しました。独立してからは、ゲームの3DCGデザインを中心に、当時流行っていたデコメールのデザイン制作なども請け負っていました。
入社して2ヶ月で
新作タイトルのディレクターを担当
コロプラに入社したきっかけ、現在に至るまで担当したタイトルについて教えてください。
当時コロプラが作っていたゲームに興味があったのと、フリーランスではゲーム関連の仕事を受けることが多く、企業に行って一緒に開発する流れはゲーム会社で働いていたときと一緒だったので、コロプラで働いている人から紹介を受けて入社を決めました。
入社してすぐ『秘宝探偵キャリー』や『マジシャンズクロニクル』のUIを担当し、2ヶ月後にはディレクターとして『蒼の三国志』の開発に携わり、立ち上げから10ヶ月ほどでリリースしました。その後『バクレツモンスター』の立ち上げに携わり、バトル部分など遊びのコアとなる部分を作りました。
それぞれゲーム全体を見つつ、世界観やキャラクター、背景、演出などのコンセプトを決めるなど、アートディレクションも担当していました。
その後、事業の拡大により事業部制から機能性組織に移行したことで、デザイナー部門のマネジメント業務が中心となり、多いときは200人規模の組織をみていました。
現在は、引き続きデザイナー部門のマネジメントと新作ブロックチェーンゲームの開発に携わっています。このブロックチェーンゲームは、創業者の馬場が代表を務めるコロプラグループの新会社「Brilliantcrypto」からリリースされる新作ゲームで、ディレクターの馬場のもと、プロジェクトの一員として開発を進めています。
コロプラでの仕事で印象に残っていることはなんですか??
『蒼の三国志』の運営をしていた際に、当時のスマートフォンゲームでは珍しく「謎解き」要素を追加したことがあったのですが、ユーザーさまの評判があまり良くなかったんですよね。そのときは、謎を解くこと自体が楽しくて、難しい謎が解けることで達成感につながる...それがみんなの求める"ゲーム"だと思っていましたが、スマホゲームにおいてはそうではなく、ゲームの主体験から外れた遊びを強く押し出したことがストレスに感じられていました。
家庭用ゲームは買い切りがメインなので、買ったものの中に多岐にわたる体験が含まれています。しかしスマホゲームの場合は、無料ではじめられて、そこに価値を感じたらお金を払ってもらうことになります。価値を感じたものと違うところでストレスを感じさせてしまうと、離脱してしまいますよね。これはスマホゲームに限らずですが、遊びが面白くてもそのゲームの主体験から外れたものは必ずしもユーザーさまが求める体験ではないと勉強になりました。
あと、当時は運用経験がなかったので、ゲーム内で障害が発生したときの対応やユーザーコミュニケーションなど分からないことが多く大変でした。ただコロプラは運用のノウハウがしっかりあって、経験がない僕でも実際にやりながらスキルを身につけることができたので、クリエイターにとって成長やチャレンジできる環境が整っていると思います。
面白いと思えるゲーム体験を作る
それがリードクリエイターの役割
リードクリエイターに就任したときの気持ち、その後の変化があれば教えてください。
面白いと思えるゲーム体験を作っていく。特にやることは変わりませんね。強いて言えば社内外に認知されたので身が引き締まる思いです。リードクリエイターという制度はそういう狙いも含めて、もっとプレッシャーを感じて意識してやれよっていうメッセージが込められていると思っているので(笑)
またリードクリエイターだけでなく、役割や役職を持ったらその役割を演じ切ることが大切だと思っています。部長でもマネージャーでもそれぞれの役割を十分に果たすことができれば、結果として目線が上がるし、自身の成長だけでなく、組織の成長にも繋がります。
リードクリエイターという冠をつけた人たちは、リードクリエイターに期待されるパフォーマンスを出さなければいけないですし、そういうプレッシャーのもと、結果的に面白いゲームが作れるんじゃないかなと思います。
ゲームづくりで意識していることや大切にしていることを教えてください。
ゲームだけでなく全てのサービスにおいて当たり前なのですが、ユーザーさまが価値を感じるものを提供するべきです。ただ、ついつい開発していると自分の作りたいものになってしまうこともあります。
特に我々が作っているゲームは、まず無料で提供して価値を感じてもらって初めてお金を払ってもらうフリーミアムモデルなので、より強くプレイの敷居を下げて、価値を感じてもらいやすくしなければならないと考えています。たとえば、操作が分かりづらいとか、読み込みが長くてストレスだとか、キャラクターが触っていて気持ち良くないとか、そういったことは敷居を上げてしまいますよね。
全てのゲームにおいて言えることではあるんですが、我々の作っているスマホゲームでは特にそのような敷居を下げることが重要だと思っています。ヒットしているゲームのほとんどはなるべくストレスがないように作られているので、僕がゲームを作るときはその辺をすごく意識しています。
ゲームを作るなかで、アートやデザインの在り方について教えてください。
"遊んでみたいと思える見た目"でしょうか。ファミコンの時代はゲームのパッケージを見て、欲しいと思ったら買うというのが普通でした。遊んでみたいと思ってもらえるためには、見た目が欠かせない時代だったと思います。いわゆるジャケ買いというものでしょうか。ただ、プロモーションやプレイ動画、SNSなどでさまざまなゲーム内容に関する情報が出回っている現在においても、実は同じことが言えるんですよね。
SNSなどで流れてくるプロモーションビデオを見てゲームに興味を持ってもらうことってあると思うんですが、ゲーム体験を味わえるわけではないですよね。プロモーションビデオやアプリストア画像の見た目を見て、遊んでみたいと思ってもらうことは昔も今も変わりません。
さらに、遊び始めてから"続けたい"と思えるアートも必要ですね。具体的には、ついつい触ってしまうUIや、気持ち良い手触り、キャラクターゲームであれば魅力的なキャラクターの見た目やアクションでしょうか。
"遊んでみたいと思える見た目"と"続けたいと思える体験"この2つがゲームにとってのアートだと考えています。
"遊んでみたい"と思うゲーム体験を形にする時のこだわりは?
"遊んでみたい"と思ってもらえるところでいうと、既視感を与えないようにすることですね。他のゲームと一緒なんだよねっていう印象は与えないようにしたいです。奇をてらったり、外連味を強くしたいということではなく、何かしら新鮮な要素、ユーザーさまの興味を惹くフックとなる要素を入れたいということですね。
逆に既視感があったとしても、世の中的に大注目されているような見た目であれば、それは一つの戦略だとは思っています。「マインクラフト」みたいにデフォルメされたボクセルの世界観はシンプルで人を選ばず好まれます。こういったいわゆる流行っているものは既視感があっても遊んでみたいと思ってもらえると思います。
ただ、僕は流行っているものを更に超えて作るというのは結構難易度が高いと思っています。そこにチャレンジするのはなかなか大変なので、ついついやり易い方を選んでいるだけかもしれませんけどね(笑)。人によってどちらがやり易いか難しいかは違うと思いますが、僕としては新しいものを生み出す方に魅力を感じます。
別にアートだけを新しくする必要はなくて、見た目に新しさがなくても、遊び自体に新しさがあればそれでも良いと思います。
逆に、遊び自体がよくあるアクションゲームなのであれば、既視感のある見た目でなく、何かしらフックのあるアートにする必要があると思っています。何が何でも新しいものを作れば良いというわけではありませんが、体験が「普通」であれば見た目はには新しい驚きが必要です。
"続けたい"と思うゲーム体験を形にする時のこだわりは?
プレイしていて気持ちのいいゲームにすることです。大切にしている要素としては主に3つあります。
一番は「手触り」の良さを重視しています。手触りが悪いとどんな面白い内容のゲームでもストレスが勝って続かなくなってしまいます。タップしたのに反応するまでにラグがあるとか、イメージした通りに画面の遷移やキャラクターが動かなかったりとかですね。
2つ目は「分かりやすさ」です。続けてもらうためには、何も迷わずに進行できることが大切で、選択や判断に迷ってしまうとプレイヤーはその時点で離脱してしまいます。
3つ目は「自分の力でやったと感じる達成感」が得られることです。この3つの要素が満たされているゲームは、プレイしていて気持ちのいいゲームであり、"続けたい"と思えるゲームを作る上で欠かせない要素と考えています。
議論の先にある
正解のないゲーム体験
ゲーム作りをしていて楽しいと思うときはどんなときですか?
さまざまな価値観を持った人たちと色々な議論をしながら作っているときです。
正解のないエンタメ作りに対して、みんなの知識や感覚を出し合いながら、それぞれの経験だったり、遊んでいるゲームだったり「こうしたらよくなるんじゃないか」って"ゲーム"という遊びを作ることに対して真剣に議論するのはとても楽しいです。
一人でものを作っていると自分の主観頼りですし、客観的に見ようとしても主観を他人の意見で補正している状態なので、結局は自分の主観を形にしてしまいます。
チームで制作をしてると、自分が知らなかった知識や気づきがたくさんありますし、ものづくりにおいて議論を重ねることはとても大切だと思っています。そして、さまざまな議論の上で方針を決めなければいけないというときに、コンセプトにおける適切な意思決定をするのがチームのリードの役割でもあります。
時には議論がヒートアップする場面もありますが、大人が遊びを作っていて熱くなる場ってすごく魅力的だと思いますし、それだけ真剣に考えた先に我々が作ったゲームがある。売上的な成果はもちろんうれしいですが、その過程が楽しいと感じますし、自分が試行錯誤を繰り返して作ったゲームが世の中の人に楽しいって言ってもらえることがなにより嬉しいです。
チームづくりで大事にしていることはなんですか?
プロジェクトのゴールはもちろん、なぜそれをするのか、何のためにやるのか、全員に伝えることを大切にしています。そしてその内容こそがリードクリエイターの重要な役割だとも思っています。
メンバーに要件だけ伝えてもゴールがズレてしまったり、理由も分からずに作っている状況に陥ってしまい、仕事としてのパフォーマンスも落ちてしまいます。どんなに細かいことでも、どういう理由でなんのためにやるのか、納得してもらえるように伝えることが大切です。
また伝えることと同時に聞くこともありますね。どうしてこうなっているの?に対して答えがなかったり、不明瞭だったりするとそもそも説明が伝わっていない、もしくは伝わっているけど認識が違った状態で作っていたり、ズレが生じてくるので、必ず理由を聞くようにしています。
理由は論理的でも直観的でもいいので、デザインでもプログラミングでも全てにおいて理由を持って作ることを意識してほしいですし、より良いものを作るために必要なことだと思っています。
リードクリエイターが一緒に働きたい人材とは?
一番はものづくりにこだわりを持てる人と働きたいですね。こういうゲームとかデザインにしたいといった目標に対して、真剣に考えて、こだわり持って提案できる人はクオリティの高いものを見せてくれますし、それがたとえ当初と求めているものとは違っていても、それよりもいいものであることが多いです。ものづくりに対してこだわり抜いてアウトプットを出せる人は本当に尊敬します。僕自身もそうでありたいですし、そういう人と一緒に働きたいですね。
あとは、他人とは違う発想を出せる人。突拍子もない考えからたどり着けるおもしろい体験はたくさんあると思っています。もしかしたら周りからは変わった人と思われているかも知れませんが、そういう人とお仕事するのは好きです。