高度なレンダリング手法を
スマートフォンで実現
3Dモデルの新しい技術と制作のこだわり
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T.M
2015年にキャラクターモデラーとして入社。『白猫プロジェクト』でキャラクターモデルの制作、制作管理を経て、現在は新規開発のタイトルのキャラクターモデル構築、進行管理を担当。
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山本俊介
コンシューマーでのゲーム開発にかかわり、多くのメジャープロジェクトに参加。2018年にコロプラにキャラクターモデラーとして入社。『白猫プロジェクト』運用を経て『白猫ゴルフ』『PRINCIPLES』の開発に携わる。現在はテクニカルアーティストとして3Dモデル制作にかかわる基盤技術開発にも携わる。
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E.O
2014年にコロプラに入社。キャラクターモデラーとして『東京カジノプロジェクト』『白猫プロジェクト』の運営に長期にかかわり、さまざまなキャラクターのモデルを制作。現在は『白猫ゴルフ』や新規開発のタイトルに携わる。
コロプラは新作『MONSTER UNIVERSE』『PRINCIPLES』に至るまでに、3Dモデルとともに、スマートフォンアプリでさまざまなキャラクターたちを展開してきました。その根幹を支える3Dモデルを制作されてるメンバーの方に、コロプラ制作体制や技術がどのようなものか、「今のコロプラ」を詳しく聞いてみました。
これまで『白猫プロジェクト』の運営に長く携わってきたと思いますが、長期タイトルならではの面白さを教えてください。
T.M 『白猫プロジェクト』は現在まで1,000以上のプレイアブルキャラクター、敵キャラクターが登場していますが、かわいい系、カッコいい系、お姉さん系など、ある程度テンプレート的なキャラクターは登場しつくしているところがあります。だからこそ、その限界を超えて思いもしないようなキャラクターがポンと生み出されるのが面白いですね。
E.O 想像しないようなユニークなキャラクターが、いまだに新しく生み出されていることに驚嘆します。ここまで長期化すると、キャラクター性はある程度、彫り尽くされている部分はありますからね。
山本 基本的に制作ツールは変化していませんが、定められた制限の中でも技法的に洗練されていっています。例えばテクスチャの陰影を描く際のボケ足の硬さのコントロールは重要で、発色の良さや多彩な質感表現とは切っても切れないものです。実際2014年のキャラクターモデルと現在のキャラクターモデルを比べると、差は歴然だと思います。
一度クオリティ的に高いものが完成すると、つぎにそれ以下は出せなくなる。ある意味自分たちの首を絞めている、という部分はあるんですが(笑)。
キャラクターモデルはどのようなフローで制作されているのでしょうか。また制作環境に変化はありますでしょうか。
T.M 『白猫プロジェクト』の制作フローとしては、まず2Dアートが軸となります。そこから、プランナー、シナリオライターと相談しながら詳細を詰め、我々3Dアーティストが3Dモデルに起こしていく、という流れになります。我々の業務内容はモデルの制作までで、その後はキャラクターたちに動きをつけるアニメーターへと受け渡します。
山本 制作環境の大きな変化としては、手描きテクスチャから、より高度なシェーダー表現を駆使したものとなりました。動的なライティングやノーマルマップによって表現力が格段にあがったので、『白猫ゴルフ』では高品質・高精細なモデルを制作しています。
『白猫プロジェクト』など、以前は金属の質感など、それぞれのモデラーが手書きで行なっていた部分もあり、キャラクターの見た目などクオリティにばらつきが発生することもありましたが、Adobe Substance 3D Collectionを軸としたテクスチャ制作に完全移行したことで、ばらつきのあった表現が統一されたり、ゲームの長期運営に耐えられる保守性や再利用性の高いモデル・テクスチャーの制作フローが実現できています。
T.M 新規開発タイトルでもAdobe Substance 3D Collectionを使って、カラーテクスチャ1枚ではなく、質感、ディティール用など、複数のマップを組み合わせた表現をしています。鎧に使われる金属、洋服に使われる布の質感も手描きではなく、質感ごとにパラメータで設定・整理できるようになりました。テクスチャリングの方法はガラッと変わっていますね。
山本 全体的なクオリティは上がっていますが、その分コストも『白猫プロジェクト』の倍近くになっています。開発の初期はそのコスト問題が顕著だったのですが、現在では改善するためにモデリング以降の修正を完全に自動で再計算する仕組みを構築し、コストの削減をしています。
運用系タイトルは非常に時間が限られています。限られた時間の中でより高いクオリティのモデルを作る必要があるので、「時間との戦い」をスマートに解決することをコロプラでは重視してます。
2023年1月24日に『PRINCIPLES』がリリースされました。短編作品で実験的演出・表現が多く感じられたタイトルですが、意味・狙いはどこにあったのでしょうか。
山本 PCや据え置き機ではPBR/ディファードレンダリングはメジャーな手法ですが、スマートフォンでの採用例はありません。なので、今回の『PRINCIPLES』では「高度なレンダリング手法をスマートフォンのアプリで実現する」ということを目標に制作しました。
本来、このような技術的側面が強く、あくまで社内のほかのプロジェクトの基盤となるものは広く一般公開しないことが多いのですが「商品として使用できるレンダリングエンジンを制作する」という狙いもあったので、ゲームとして最小限の骨格を作りリリースしています。
実際にリリースにあたって、iOS、Androidのさまざまな機種、バージョンでの動作の確認が必要になり、普段制作しているものよりも、はるかに高い基準でクリアしなければなりませんでした。今回無事クリアできたことで、『PRINCIPLES』で使用した新しい技術が、今後は商用作品として使用できるという証明ができたと思っています。
現在開発中の複数のタイトルでも、このレンダリングエンジンがコアとなって開発が進んでいます。
さらに、『PRINCIPLES』をリリースしたことで、コロプラで現在開発しているスマホゲームのクオリティや表現力を示せたと思っています。昨今ではスマートフォンのみならずPC、据え置き機も含めたクロスプラットフォーム開発が主流となっていますが、スマートフォンバージョンをコンシューマーと遜色ないクオリティでリリースすることが可能になったと考えています。
それぞれ、自分なりに3Dモデルの制作でこだわっていること、制作する上での醍醐味を教えてください。
T.M キャラクターはまずユーザーさまの目に最初に入る部分ということもあり、とにかく「顔が命」というモットーで制作しています。正面から見ても、斜めから見ても美しさ、可愛さ、カッコよさを感じられる作りですね。そして、顔の造形だけではなく、髪のバランス、身体のバランスをすべて美しく、違和感がないものに仕上げることにこだわっています。
ありがたいことに『白猫プロジェクト』で、数多くのキャラクターのモデルを制作し、ユーザーさまからさまざまな反応をいただくことができました。その蓄積で僕自身はとくに「可愛さ」の表現に関して自信が持てるようになりましたね。
E.O 私は対象物の構造を深堀してモデル制作することを心掛けています。これにより3Dモデルとしての説得力が上がる手ごたえがあります。そして、与えられたデザイン画をそのまま作るのではなく、テイストを残しながら3Dモデルとしてのクオリティが上がるように工夫を凝らしています。
例えば、デフォルメ化の仕事を与えられたとき、現実に存在しない髪型のキャラクターだったりします。ですが、そういうものだとしても、現実の世界ではどういう構造になるかをまず考えるんですね。そうすることで、ゲーム的表現の独特な髪形も違和感なく作れます。
イケメンも可愛いキャラクターももちろんですが、私は特にコーンポップのような擬人化的なモデルを制作するのが好きです。何かしらの物体を擬人化する際にも、対象物の構造をしっかりと調べてからモデルにも反映することで、より愛着あるキャラクターにできます。
山本 僕は「生きているモデルを作る」ことを大事にしています。「生きていると死んでいるの差って何か?」というところなんですが、「動いているか、止まっているか」なんです。我々が制作したモデルを後からアニメーターさんが動かすので、制作時点では動きを感じるモデルである必要はないという考えもあるんですが、僕は止まったままでも「動いているように見える」ことを意識しています。
例えば、表情が変化の途中にあるとか、ポーズも動きの途中にするなど、少しでも動きを感じさせるようにしています。それが生き生きしたモデルにつながると考えています。
止まった状態で止まっているキャラクターは、アニメーションを入れたとしても、躍動感が感じられないです。とくに代表的なのが表情です。例えば、『白猫プロジェクト』だと顔のアニメーションをしないので、ほんのり笑ってる、怒ってることが大事。それによって、躍動感だけでなく、キャラクター性にも大きく影響を与えているんです。
髪型も表情をつけてあげることで、「風になびく柔らかい髪なんだ」と感じられるようになって、より深みのある表現につながっていきますね。
皆さんにとってコロプラは、どのような特色、雰囲気の会社でしょうか。
山本 コロプラ最大の特色は技術面に強いことです。組織力を活かして、最新の技術や『PRINCIPLES』で使用したレンダリングエンジン、レンダーパイプラインなどの技術を使って開発ができる。一般的に、会社が大きくなると、風通しの良いコミュニケーションは難しくなっていきますが、コロプラは他のチームの人とも、上司とも気軽にコミュニケーションを取ることができます。技術力があり、それに加えてまわりとのコミュニケーションが取りやすい。とてもいいバランスだと思います。
T.M 率直に、会社全体のチームワークがいい。僕が新作にアサインされたとき、実はかなり悩んだことがありました。そんなときに、同じプロジェクト内のメンバーだけじゃなく、違うプロジェクトの人にでも気軽に相談して助けてもらったりなど、そういう部分では会社全体が協力的で助け合える環境・雰囲気が整っています。
E.O 入社するとブラザー・シスター制度というものがありまして、ひとりにつきひとり先輩がついて、困ったときに気軽に相談できる環境が整っています。なので、そこから人間関係も広がりやすいですし、仲がいい環境で協力しながら、かつ自身が成長する道筋も整えられているのがいいですね。
最後にキャラクターモデラーとして、どんな人と一緒に働きたいと思いますか?
T.M 新しい技術に興味がある人、モデルのクオリティを向上させることにこだわりがある人と、一緒に仕事をしたいと思っています。そして、我々はキャラクターモデラーなので、「観察する力」を基礎として身に付けてほしい。普段から立体物、造形物を見て、常にイメージすることを心掛けてほしいです。
フィギュアのような立体物もそうですが、「物質の質感を意識」することも大事です。我々はリファレンスを見てそれを画面内に再現していくので、その意識がクオリティにつながります。
そして、会社の方針として「素直な人」という部分を大事にしています。上手くいくこともあれば、失敗をすることもあるのは当然です。失敗、ミスをきちんと受け入れ、認めることで人は成長していくので、何事も「素直に」受け止めてくれる人がいいですね。
E.O つねにコミュニケーションとクオリティにポジティブで、3D、ゲームに興味があり、自ら新しい情報・技術を率先して受け取る人と仕事できるとうれしいです。ゲーム開発はさまざまな知識・経験が創造力に反映される業務だと思うので、映画・アニメといったエンターテインメント作品を積極的に見てほしいです。
そして最近はAdobe Substance 3D Collectionを使用して3Dモデルを作ることが増えてきたので、このツールの研究・実践を普段から意識しておくといいですね。
山本 僕はエンターテイメント業界で仕事をするには、「人を楽しませるのが好きな人」ってことが根幹だと考えています。これは、この業界に関わる人すべてに必要な性質だと思っていて、それを持ったうえでモデリング適正がある人がモデラーになり、アニメーションに適性がある人がアニメーターになり、プログラムが好きな人がプログラマーになっていくというというものじゃないでしょうか。この「人を楽しませるのが好き」っていうのが根底にないと、絶対にダークサイドに落ちます(笑)。
プレイしてくれるお客様が「勇者であり、主人公」僕たち制作人は皆さまが楽しんでくれることを最大の喜びとするべきだと思うんですよね。
今後のリリースタイトルでどんなキャラクターモデルが登場されるのか楽しみです。ありがとうございました!
※ 本インタビューは撮影時のみマスクを外す等、感染症対策を十分にした上で行いました。