フェイスにジョイント60本!
表現の広がりと効率化の両面から考えるモーション制作現場の最前線
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上田 将弘
コンシューマーゲーム会社を経て、2014年コロプラに入社。モーションデザイナーとして『軍勢RPG 蒼の三国志』『バトルガール ハイスクール』『プロ野球PRIDE』『ドラゴンクエストウォーク』など多岐に渡るプロジェクトに携わる。『MONSTER UNIVERSE』には開発初期から参加し、モーション作成の効率化に携わる。
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涌井 博哉
映像制作会社のCGアニメーターを経て、2016年コロプラに入社。モーションデザイナーとして『白猫プロジェクト』の運用に携わり、現在は新規プロジェクトに参加。モーションリードとして手付けモーション、モーションキャプチャ、絵コンテ、機能開発の提案など幅広く活躍。
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畠 祐貴
コンシューマーゲーム会社を経て、2021年コロプラに入社。モーションデザイナーとして『ユージェネライブ』の運用に携わった後、『MONSTER UNIVERSE』の開発に携わる。その後さらに2つの新規プロジェクトに参加。仕様やリソースの策定など幅広く活躍。
スマートフォンと通信技術の進歩により、かつてないリッチな表現のスマホゲームが続々と生み出されています。それに伴いコロプラの開発現場では、新たな技術の導入や効率的な制作フロー、アニメ映画さながらの演出など、さまざまな技術革新が進められています。今回のモーションデザイナー座談会では、新作『MONSTER UNIVERSE』と現在制作中の新規タイトルにおける "新たな試み"についてお聞きしました。コロプラのモーションデザイナーの開発環境は、どんな進化を遂げているだろう⁉
今回は新作『MONSTER UNIVERSE』(※以下、『モンユニ』)と現在制作中の新規タイトルにおける、モーションの制作現場の"新たな試み"についてお聞きしたいと思っています。まずはモーションデザイナーとして、どのように開発に携わったかを教えてください。
上田 私は『モンユニ』の開発初期から参加し、インゲームのアクション部分をメインで担当しました。現在は別の運用タイトルに参加していますが、『モンユニ』リリース後もバグ修正や追加のモーション作りなどで関わっています。
畠 私も途中からですが『モンユニ』の開発に参加し、オープニングの映像シーンやキャラクターの演出、モンスターのモーション調整などを担当しました。特にフィーナ(※『モンユニ』の主人公)は自分でもやったことのないタイプのキャラクターだったので、ぶっ飛んだ動きにしようと思ってモーション作りにはこだわりましたね(笑)。
涌井 私は『白猫プロジェクト』の運用に5年ほど携わった後、新規プロジェクトの初期段階から参加し、モーションリードとして開発に携わっています。
『モンユニ』新規タイトルそれぞれにおいて「新しい体験を届ける」ためにどんなミッションがあったのでしょうか?
上田 『モンユニ』のアクション部分を開発する上で求められていたことは、キャラクターがモンスターに騎乗して戦う爽快感や、たくさんの敵をなぎ倒す痛快さといったアクションの気持ちよさでしたね。フリックで必殺技を繰り出したり、連続攻撃で敵を吹き飛ばしたり、いろんな動きを作ることでユーザーさまが気持ちよくプレイできることを意識しました。
畠 私は『モンユニ』の開発途中から参加することになったのですが、開発当初に想定していたスマートフォンのスペックよりリリース時の想定スペックが上がったので、モンスターの動きをより気持ちよく表現できるよう、ジョイントを増やすなどの改良を行いました。もちろん新たに追加したジョイントには動きがないのでかなりの数のモーションを付け直す作業をしましたね。
上田 たとえば、もともとモンスターの翼と尻尾は、そんなにジョイントが多くなかったんですよ。それがジョイントを増やす改良を加えたことで、より表現の幅が広がったわけです。
涌井 新規タイトルにおいても、全体的に表現の幅を広げ、よりエンターテイメント性を高めていくことがミッションでした。そのため、スマホゲームでは難しいとされていたことにもいくつか挑戦しています。
たとえばこれまでのコロプラのスマホゲームでは、指のジョイントを2本に抑えていたのが一般的だったのに対し、今回の新規タイトルでは指のジョイントを15本、五指がしっかり動くように入れています。その結果、手の表情にこだわることが可能になりました。
畠 『モンユニ』の場合は、指のジョイントが2本なので、手の表現には苦労しましたね(苦笑)。不自然に見えないように手の角度を変えたり、カメラの位置を調整したり、いろんなことをしました。
上田 ジョイントが2本だとグローブ状にしか動かせないわけです。開発当初、同時に敵を50体くらい出したいというオーダーがあったので、データの容量を抑えるために指のジョイント数を削らざるをえなかったんですよね。
涌井 新規タイトルもインゲームでは制限をかけて指のジョイントを2本にしていますが、リッチに表現したい映像シーンではジョイントを15本にして、それぞれモデルを分けています。そのため指のジョイント2本のモーションと15本のモーションを作らなくてはいけなくて、両方の苦労がありましたね。
畠 インゲームではアップになることも少ないので、細部まで作りこむ必要がないケースも多いのですが、映像シーンはかなりアップになる場合があるので、インゲーム用と映像シーン用で別のモデルを使うことはよくありますね。映像シーンでしっかりキャラクターを見せたい場合は、指の動きや表情で演出をプラスするわけです。
モーションのジョイントは表現をリッチにする反面、ゲームの負荷に直結するものとのことですが、これまでのタイトルと比べて、『モンユニ』と新規タイトルでは、どれくらいジョイント数が増えているのでしょうか?
涌井 『白猫プロジェクト』はゆれものを除いた全身のジョイントが15本くらいだったと思いますね。
上田 『モンユニ』は25、6本なので、格段に増えたというわけではないですね。
涌井 新規タイトルは全身のジョイントに関しては『モンユニ』とほぼ同じ本数なのですが、それとは別に顔だけでジョイントが60本ほど入っています。以前は、顔にジョイントを仕込むこと自体が、データ容量の制限もあってNGとされていましたが、スマホが進化して重い処理も可能になったことで、顔にジョイントを仕込むことが可能になったんです。
畠 新規タイトルのデモを見て、フェイシャルだけでここまでできるのか!と驚きました。しかも一人ひとりキャラクターごとにジョイントの構造も違いますからね。これはスマホゲームとしては相当すごいことだと思います。
涌井 人間が最初に相手の目を見るように、ゲームでキャラクターを見る時も、まず顔を見ますよね。だから表情は一番こだわりたかったところでした。
ピクサーのアニメーション映画のような表情の豊かさを意識して、開発当初から表情を柔らかく動かせる仕組みを考えていました。フェイシャルに関しては、これまでのコロプラのゲームとは一線を画すものになるのではないかと思っています。
畠 新規タイトルのリッチな表現を見ると、もっと『モンユニ』もリッチにしたかったなって、ちょっと羨ましく思ったりもします。でも、フェイシャルのジョイント数を聞くと、大変そうだなって(笑)。
涌井 ご想像のとおり、ジョイントを増やせば増やすほど大変ではあります。
キャラクターにとって顔は命なので、表情を動かすという領域に踏み込んだ以上、責任感をもってやり切らなければいけないと思っています。その一方で、いいものを作らなければ、という焦りもあって、逆にリリースを終えた『モンユニ』を羨ましく思います(笑)。
とはいえ、モーションデザイナーとして多彩な表現に挑戦できる環境を与えられたことは、すごく幸運なことだと思っているので、この環境を存分に活かしていきたいですね。
よりリッチな表現が可能になったことで、モーションの作り方も変わってくるのではないかと思います。今回の開発では、どういった新たな試みがありましたか?
上田 『モンユニ』のモーションに関しては、新たな技術を取り入れたというより、どちらかというと効率化の面で新しい試みに取り組みました。
『モンユニ』はキャラクターとモンスターの数がかなり多いゲームなので、期間内に限られた人員で、いかに大量のモーションを作るかが課題でした。そのため私が真っ先に考える必要があったのが、効率的なモーション作成のシステムを設計することでした。
まず、キャラクターはS、M、Lの3サイズあるのですが、サイズごとにモーションを作っていると3倍手間がかかります。そこでMサイズのモーションだけ作成することにして、出力時にMayaのHIKでリターゲットしてLサイズとSサイズのモーションを自動生成するようにしました。
ただし、モーションを自動生成すると、キャラクターがモンスターにめり込むことは避けられません。できるだけきれいに騎乗できるようにしていますが、トサカがあったり角があったりモンスターの形状もさまざまですし、開発中はどんな新モンスターが追加されるかもわかりません。
ですのでそこは制限をかけずにユニークなデザインを優先し、ある程度のめり込みは許容することにしています。
たしかに高度な表現が可能になればなるほど、それを「いかに効率的に作るか」ということが最優先課題になりそうですね。
上田 こうしたモーション作成の効率化は、前職のコンシューマーゲーム会社でもやっていたことなので、その経験を活かして最初に取り組みましたね。
畠 私も上田さんの立場だったら、おそらく同じような方法をとったと思います。自動生成によるめり込みに関しては、大画面だとめり込みに気づく方もいらっしゃるかもしれませんが、スマホ画面の場合はよく見ないと気にはならないレベルかと思います。
涌井 ゲームの場合は細部へのコストは抑えつつ、どの方向から見えても破綻が無いように作る必要があります。映像の場合は画面の外側まで作らなくていいかわりに、画面の内側は細部まできれいに作る必要があります。結局、ゲームも映像も見えている部分にこだわるという点では同じことだと思います。見える部分にどれだけ作業コストをかけて、効率よくインパクトを与えられるか、ということなんですよね。
新規タイトルのフェイシャルについては、「これくらいの表現は前にもあったよね」という印象だと、そこまでインパクトがないと思うんです。ユーザーさまに見てほしい部分に関しては、自分でもちょっとやりすぎなんじゃないかと思うくらいのクオリティを狙ってますね。
現在、みなさんはどのようなことに"挑戦"していますか?
涌井 新規タイトルでは「生きた」キャラクターを表現することに挑戦しています。先程のフェイシャル表現もその一つですが、モーションキャプチャーを積極的に使っているというのも特徴の一つです。それ自体は新しい技術ではないのですが、コロプラ内ではそこまで使ってこなかったのでこれは一つ挑戦と言えるかと思います。
指のジョイント数を増やしたりフェイシャルの表現が複雑になったり、キャラクターの演技の部分でやることが増えたぶん、どうしても制作コストが上がり、手付けモーションだけでは制作工数が非常に高いので、モーションキャプチャを使うことで制作コストを削減しています。また、手や足の細かな動きは繊細で、手付けで制作するのは難易度が高いので、演者さんの実際の動きを取り込むことで質の高いモーションを低コストで制作できることもモーションキャプチャの強みですね。
撮影:株式会社グリオグルーヴ スタジオイブキ(https://www.studioibuki.com/)
演者:株式会社MOTION ACTOR / Mao様(https://motionactor.co.jp/)
畠 私は、新規開発に携わりながら、モーションのリファレンス(※実装の標準規格)に関する社内プロジェクトを進めています。たとえば『モンユニ』で作成したモーションを別のタイトルで使おうとしても、これまでは使いにくかったのですが、社内のスケルトンの仕様を統一することで、別のタイトルでも使えるようにしようという試みです。これについては上田さんを中心に、モーションデザイナー全員で取り組んでいます。
上田 そうですね、まずテクニカルアーティストのチームに「人型だったらこういう仕組みで動く」といったシステムを作ってもらっています。統一されたシステムに則ってモーションを作れば、データ移行もしやすくなりますし、「どのジョイントがどんなふうに動く」といった仕組みが同じなので、他のプロジェクトに移っても覚え直す必要がなくなり、すぐに作業に取り掛かれますよね。今後の新規タイトルから、そうした仕組みをベースにモーションを作っていこうという試みです。
涌井 同じ剣を振るモーションを毎回作らなくてもよくなれば、そのぶん別のモーションの作業に当てられますよね。効率化が進むことで人が手を動かすことが減るわけですが、そのぶんキャラクターの演技や演出を考えたりすることが増えて、モーションデザイナー全体の表現力が向上するのではないかと思っていますね。
最後にモーションデザイナーとして、どんな人と一緒に働きたいと思いますか?
涌井 もちろんモーションが上手い人、映像などの絵作りが上手い人であることは歓迎しますが、最終的に「ゲームを作りたい!」という思いを持った人と一緒に働きたいと思ってます。
畠 「こういう表現に挑戦してみたい」という思いを持って、普段から新しい技術を調べたりしている人が来てくれると、コロプラとしても、より表現の幅を広げていけるのではないかと思いますね。
上田 今は社内的な取り組みとして効率化を進めていますが、個人的に新しい技術を研究したり、知識をみんなと共有したり、自分なりにできる効率化があるものです。そんなふうに総じてレベルアップしていける仲間が加わってくれるとうれしいですね。
今後コロプラのゲームがどんなリッチな表現を見せてくれるのか楽しみです。本日はありがとうございました!
※ 本インタビューは撮影時のみマスクを外す等、感染症対策を十分にした上で行いました。