音でCGに命を吹き込む、ゲームのサウンドディレクター
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サウンドディレクター
K.M
学生時代からデジタル系の楽曲制作をはじめ、コンシューマー系のゲーム会社にサウンドデザイナーとして入社。アクションゲームやRPGのサウンド制作を手がける。退職後、フリーランスを経て2015年にコロプラに入社。現在、サウンドチームのリーダーを務める。
音作りを極めるために
学生時代はシンセサイザーやサンプラーをMIDIで鳴らして曲を作っていました。当時の機材はハードが中心で、作った楽曲をテープメディアに録音していました。インターネットも普及していない時代だったので、ほぼ独学でした。
FM番組用にジングルを作ったり、映像作品の音入れをしたりしているうちに、音をデザインする仕事が楽しいと感じるようになり、小学生の時から好きだったゲームのサウンドクリエイターになりたいと思うようになりました。大学3年生の時にデモテープを作ってコンシューマー系のゲーム会社に送ったところ、サウンドデザイナーとして入社することができ、以来ずっとサウンドの仕事をしています。
ゲームサウンドの制作は、通常「サウンドディレクター」が中心となり、曲を作る「コンポーザー」と、主に効果音を作る「サウンドデザイナー」、サウンドシステムを作る「サウンドプログラマー」が協力して開発を進めていきます。
私の場合、初めはサウンドデザイナーとしてRPGの開発を担当したのですが、現場に入って感じたことは、音を作る以外の時間も多いということでした。たとえばプランナーと音の演出についてアイデアを出し合ったり、プログラマーと音の鳴らし方やデータの実装方法について考えたり、音を良くするには他部門の方々との密な連携が必要なことを学びました。ゲームの音作りはサウンドチームだけでは完結しないんですね。コンポーザーが楽曲で使用する音色のループ設定や圧縮処理、ボイス収録やサウンドに特化したデバッグもサウンドデザイナーの大事な業務でした。
リーダーとしてサウンドディレクションを任せてもらえるようになった頃、仕事でロサンゼルスへ行くようになり、もっと音作りを極めたくなって30歳手前で独立しました。ハリウッドで活躍している人達から影響を受けたということもありますが、ポスト団塊ジュニア世代ということもあり、不安定な時代を生き抜くためには自分で稼げるようにならないと、という意識もありました。
独立後は自宅にスタジオを作り、アナログシンセサイザーやガンマイクなど機材を手に入れて、レコーディングを行い音を作りました。鳥の鳴き声を録音するために人のいない島に行ったり、弓道の先生を訪ねて弓の音を録ったり、海外にも出かけて録音を行いました。独立するには勉強不足な面があったので苦労することもありましたが、次第にアニメのMAなどゲーム以外の依頼もいただけるようになり、仕事で音作りができることに対してより感謝できるようになりました。
コロプラのサウンド制作スタイル
コロプラへ入社したのは、お世話になっていた方から「ゲームの音を本気で良くしようとしている会社がある」とのお話をいただいたことがきっかけです。サウンドをもっと良くしたくても、様々な事情があって実現しづらい現場が多い中、コロプラで話を聞いた時は本気だと感じました。はじめは業務委託先としてお仕事をさせていただくだけでも、と考えていたのですが、将来の構想など話を聞いた後には履歴書を書いていました。偶然ですが、独立する時に家族と話し合った最初の場所が今働いているビルの中だったので、少し運命的にも感じています。
サウンドの仕事をしていて一番面白く感じる時は、CGでできた映像に音を入れることで生命が宿ったかのように感じる瞬間です。音をトリガーするタイミングが数フレーム異なったり、音量が数デシベル違うだけでも印象が変わります。音の印象は映像の印象に大きな影響を与えるんですね。
『ドラゴンプロジェクト』では、オープニングシーンでシンフォニックサウンドに雨の音や遠雷の音、キャラクターの動作音を組み合わせてステージの奥行き感や壮大な雰囲気を出しました。ドラゴンの叫び声は人間と動物の声を歪ませたものをミックスして大音量で叫んでいることを表現しました。システム系の音やプレイヤーの動作音は生音やシンセサイザーの音を加工して、記号として分かりやすくなるようにクリアな質感で目立つように制作しています。効果音と楽曲、ボイスを意図した状態で鳴らすことで、聴覚を通してゲームへの没入感を高めることができるようになります。視覚と聴覚が一致した時、映像と音から受ける印象はより引き締まったものとなり、ゲームはより楽しく、面白くなります。
今後は、ふと耳にしただけでコロプラのゲームを思い出すような記憶に残る音楽や音を増やしたいです。ユーザーさまに「コロプラのゲームの音が良くなったのでは」と感じていただけるように、諦めずにやり抜きたいと考えています。そのためにチーム作りや教育、環境作りを進めている最中です。現在の映画やテレビでは、刀や剣で斬る音をつけることが当たり前となっていますが、最初につけた人は批判を受けたと聞いています。良いものを作るためには、勇気をもってスタンダードになる音を考えて作ることも必要なことだと思っています。
コロプラの仕事の流れは、私が経験してきた中では速い部類に入ります。今日作った音が、数日後にはユーザーさまに届くこともあります。そのスピード感に対応するため、サウンドデータのライブラリ化やサウンドスタジオの設置、外部協力会社との関係強化などを進めています。サウンドチームの中だけでなく、様々な職種の方々とも連携して、スピードを落とさず高い品質のサウンドと面白いゲームを継続して提供できるように努めています。
また、コロプラには「自分たちでできることは自分たちでやる」という姿勢が根付いているので、サウンドスタッフが担当するようなループ設定や波形編集などの作業をエンジニアやデザイナーが担当していることもあります。そちらを支援することも私たちの役割だと考えています。社内において、「サウンドチームに任せておけば安心」という状況に一日でも早くなればと思います。